【前編】自力のマーケティング!!戦略はこれで9割完成!!マーケティングのWHOとWHATとは?
戦略はこれで9割完成する
The strategy is 90% complete with this.
「マーケティングなんて自分たちには無縁だし、感性とセンスだけで何とかなる。」たしかに感性とセンスで特大ホームランが出ることもある。ただ、それだけに頼って凡打が続くこともあったりする。スポーツ競技において型の重要性が認識されているように、マーケティングにおいても型の重要性は存在する。差別化が難しい時代になったからこそ、なぜ正しい型が必要なのか。中小企業のブランディングマーケティング支援している現役ディレクターが解説する――。(前編/全2回)
マーケティングとは何か?
マーケティングというと、何を思い浮かべるでしょうか?広告宣伝やプロモーションを行うのがマーケティングでしょ?と思われている方も多くいらっしゃるでしょう。もちろん、間違いではありませんが、それはあくまでマーケティングの一部分でしかありません。
ノースウェスタン大学大学院教授のフィリップ・コトラーはマーケティングを「ターゲット顧客に対してより優れた価値を創造し、コミュニケーションし、届けること」だと定義しています。マーケティングは、顧客を理解して、顧客に役立つ価値を創造し、コミュニケーションを通じて知ってもらい、興味を持たせ、購入につなげる仕事なのです。
P&G(プロクター・アンド・ギャンブル)は、世界有数の消費財企業としてそのマーケティング手法で知られています。同社は、綿密な市場調査、消費者の深い理解、そして革新的な製品開発を通じて、数多くの成功を収めてきました。P&G流マーケティングの具体的な手法に焦点を当ててマーケティングの基礎概念について解説していきたいと思います。
WHO|ターゲット顧客の特定
P&Gのマーケティング戦略の最初のステップは、ターゲットとなる消費者群、つまりWHOを特定することです。P&Gは市場を細分化し、製品やブランドごとに具体的なターゲット顧客を定義します。この過程では、消費者の生活様式、価値観、購買行動などを徹底的に研究し、製品のポジショニングやコミュニケーション戦略を決定します。この深い消費者理解は、製品開発から広告、販売促進まで、マーケティング活動の基礎となります。それでは、WHOの設定について見ていきましょう。
WHOの設定においては、戦略ターゲットとコアターゲットの2つを定義していきます。戦略ターゲットは、マーケティング予算を必ず投下する最も大きなくくりであり、コアターゲットはマーケティング予算を集中投資する消費者のくくりとなります。戦略ターゲットを設定するときに注意が必要なのは、目標に対して小さすぎないことです。また、戦略ターゲットはひとつですが、コアターゲットは複数あっても構いません。例えば、戦略ターゲットを「旅行が好きな人」と設定し、コアターゲットは「4~11歳の子どもがいるファミリー」や「子育てが終わったママ」などになります。
WHAT|提供する価値の明確化
WHATとは、消費者に提供する価値を明確にし、その価値によって消費者が何を得られるかを明確にすることにあります。これは、単に製品の機能を指すのではなく、消費者の生活をどのように豊かにするか、どのような問題を解決するかという価値提案に関わります。
例えば、P&Gの洗剤ブランドである「タイド(米国ブランド)」は、衣服を清潔に保つだけでなく、家族の健康を守るという価値を訴求します。この段階では、消費者が製品を使用することで得られる具体的な便益(機能的便益と情緒的便益)を定義することが大切です。ただし、ここで気をつけなければならないことは、消費者が持つ不を外さないことです。不とは不満・不便・不安・不都合・不快感などのことであり、これを考えるうえではインサイトが重要になります。
消費者インサイトについて
消費者自身も気づいていない、無意識の本音のことをマーケティング用語で「インサイト」と呼びます。インサイトとは、あくまで隠された真実であり、指摘されてみてその通りだなんて反応できるものは本当のインサイトではありません。インサイトは、口に出すことはもちろん、考えることもはばかられるようなものであり、そこには人間の煩悩や葛藤があるのです。
かつてマクドナルドは、女性から最も多く寄せられた「ヘルシーなメニューが欲しい」というアンケート結果に基づきサラダマックを開発しました。しかし、サラダマックは全く売れずに廃盤となりました。この事例が何を示しているかというと、ヘルシーなメニューが欲しいという建前の裏には、たまには後先考えず脂っこくて味が濃いハンバーガーにかぶりつきたいという煩悩があったということなのです。
いつもヘルシーさを重視している人にとっては、自分だってたまにはカロリー計算から解放されたいという不自由さをインサイトとして持っていたということです。このような消費者の不は、アンケートで発見できるものではなく、洞察しなければ決して行き着くことはできないものなのです。