未来のレモンサワーは定番化するのか?変わり種マーケティング戦略を斬る!!

変わり種のRTD
Unusual RTD
アサヒビール独自の「フルオープン缶」を利用したレモンサワー。蓋を開けるとパキッという開栓音と共にシュワシュワと香りの良いレモンスライスが浮き上がってくる。レモンスライスはそのまま食べられる。「視・聴・嗅・味・触で味わう『五感で楽しむ新しいレモンサワー』ができた」と、アサヒビール 新ブランド開発部が興奮しているという噂の未来のレモンサワーをリポートする――。

2024年6月に首都圏・関信越エリアで数量限定で発売したが、発売から3週間程度で売り切れる店舗が多かった。8月27日から、同エリアで再度、数量限定発売している。「オリジナルレモンサワー」と「プレーンレモンサワー」(サワー液に糖・香料を不使用)の2種類がある。345mlで298円(税込)とビールを超える価格なので、少々お高めだ。パッケージを並べるとレモンが浮き上がっているように見えるのがポイントとのことだが、並べて見ることはないだろう…。
2024年6月に首都圏・関信越数量限定販売としており、いままでにない本物入り※RTD(Ready To Drink)を大きく広告訴求し、話題性醸成・トライアルを喚起している。オフラインでも試飲イベントを各所展開するなど、タッチポイントを強化している。変化を楽しみ、進歩を取り入れ、生活を充実させたい人がターゲット顧客となっている。既存のレモンサワーのようなフェイクものではなく(個人の感想です)、本物を楽しみたい人といったところだろうか。ブランドコンセプトは「世界初・本物レモンスライス入りレモンサワー品質を均一から個性へ、味覚から五感へ帰る未来の提唱」だ。
※RTD(Ready To Drink)とは「Ready to Drink」の略で、フタを開けてそのまま飲める飲料のこと。缶チューハイや缶カクテル、缶ハイボールなどの低アルコール飲料を指すことが多い。

首都圏・関信越エリアにおける2024年1-9月RTD缶市場は、前年104%で推移しているが『未来のレモンサワー』1回目発売週は前年比134.2%、2回目発売週は前年比123.9%と大きく伸長した。出典:インテージSRI+ RTD缶市場 首都圏・関信越エリア量販チェーン5業態計(SMチェーン CVS 酒DS HC DRUGチェーン) 2024年1月1日-2024年9月30日 前年比(販売金額)
発売当初は物珍しさ的に売れ行きがいいことはあるのだが、レモンサワー市場はもはやラインナップが確立されたビールよりもレッドオーシャンである。市場原理的に新商品や珍しいものは一時的にははやるが、「定着」するのは相当難しい。例えば、サントリーが2019年に発売した「カロリ。」というカロリーオフが売りだった商品は「マーケティング上の理由」で終売。また、モルソン・クアーズ・ジャパンの「ZIMA」は2021年に日本から撤退した。かつては「若者の酒」というイメージだったが、この時期に撤退したのは完全にストロング系に押し負けたのである(2023年に白鶴酒造が独占輸入販売契約を取得し、販売再開している)。
そして、何より大きいのは、345mlで298円(税込)という販売単価の高さだ。最高級ビールとして認知されているエビスビールが350mlで280円(税込)前後であることを考えれば、その高さを感じるはずだ。しかも、サントリーの「こだわり酒場のレモンサワー」など、すでに「居酒屋のレモンサワーに引けを取らない」という自負を持っている商品もある。つまり、本格派という特徴は独自性にまで高まっていないように思える。
本物を楽しみたい人というのは、そもそもレモンサワーに本物を求めるだろうか?いなくはないとは思うが、限りなくターゲット顧客層が薄いのではないだろうか。低価格という最低条件を満たし、唯一無二の独自性が発揮できれば充分に闘えるだろうが、できなければ厳しい闘いになることは間違いないだろう。