消費者の声なき声を聞け!成功への道を切り開く消費者インサイトの分析法とは?

ビジネスネタ

マーケティングの世界では「ドリルを売るのではない、穴を売れ」という有名な話があります。ホームセンターにドリルを買いに来た顧客は、ドリルそのものが欲しいのではなく穴を開けたいのだ、それならばキリだっていいではないかという示唆があるわけです。

さらに踏み込んで「なぜ、顧客は穴を開けたいのか?」を考える必要があります。顧客がコートのハンガー掛けるためのフックを壁につけたいと考えていたとします。では、なぜフックを壁につけたいのかと考えているのでしょうか?すぐに取れる玄関にコートを掛けたいと考えていることが分かりました。では、なぜ玄関にコートをかけたいと考えているのでしょうか?コートを忘れ、取りに戻る経験は一度でたくさんだという本音があることが分かりました。

目的は玄関に服を掛けることですから、スタンド型のコート掛けも選択肢に含まれるでしょう。しかし、実際は、玄関にコート掛けを置けるスペースがないのかもしれませんし、コートを掛けるためのフックをすでに用意してしまっているのかもしれません。ここまで顧客を理解しなければ、顧客にとってドリルが持つ便益を発揮できるか分からないわけです。

| 消費者インサイトとは?

消費者はどのような基準で商品を選択しているのでしょうか?多くの人は、品質や効能よく吟味して、より良いモノを選択していると思うはずです。しかし、実際は違います。米カリフォルニア大学バークレー校 A.K・プラディープ博士は、彼の著書の中で、脳の情報処理の最大95%は「潜在意識」が行っていると言っています。インサイトとは潜在意識(無意識)の本音であり、本人も意識していない、無意識下の想いや考えのことを言います。

| 見栄と忖度

アンケート調査は、自社商品やサービスの顧客評価を知り課題を発見することを目的として行われます。しかし、アンケートさえ取れば、顧客の真の評価や課題を明確にできるのでしょうか?人間には、見栄や虚栄心など、動物として本来的に備わっている自己愛があります。そのような自己愛から生まれる、「見栄張り」回答や、「忖度(そんたく)」回答といったものが、アンケートには多く含まれていることを理解しておかなければなりません。

実は、アンケートやインタビューに対して、見栄(虚栄心)から、実際よりも好ましい数字や内容の回答をしてしまったり、嫌われないように相手の気持ちをおしはかり、思っていることとは真逆のことを回答してしまうことは、よくあることなのです。しかも、記名式アンケートは、自分を実物大以上に見せようとする「下駄を履かせた」見栄張り回答を誘発しやすく、忖度の度合いも高くなることは間違いありません

分かりやすい例として、以下のアンケートに少しの見栄も張らず、あるいは少しの忖度もせずに正直に答えることができるでしょうか?

年収はおいくらですか?

いままでに、何人の異性と付き合ったことがありますか?(特に男性)

日常生活において環境保護を意識していますか?

いかがでしたでしょうか?もちろんシチュエーションによって回答も異なるものになるかと思いますが、見栄や忖度、本音とは逆の回答が入り込む余地がありそうな気がします。また、単独でのインタビュー調査であっても、顧客の「見栄張り」回答や、「忖度(そんたく)」回答を完全に防ぐことはできませんし、本音をつかむことも簡単ではありません

サントリーでは、1人当たり30~40分かける消費者インタビューを年間およそ300人に継続的に行っています。それだけの時間をかけないと、無意識の本音をつかむヒントを得ることは難しいということなのでしょう。人間の無意識の本音とは、本人ですら気づいていない潜在的な想いや考えのことです。仮に、良質なインタビューを通じて、自分の無意識の本音に顧客自身が気づけたとして、それをインタビュアーに伝えるかというと、そこには大きなハードルがあると考えるべきです。「あなたの本音は何ですか?」と聞いたところで無意識の本音を見つけ出すことはできないというわけです。なぜならば、無意識の本音というものは、生物としての本能的な欲求であり、しばしば品位に欠けるものであったり、社会的タブーや不道徳なものであったりするからです。だからこそ、無意識の本音と向き合うことは自身にとっても他者にとってもストレスを感じるものであり、口に出すことはもちろん、考えることすら憚られるようなものなのであるわけです。

人が何を感じて今の意識をもつようになったのか、いろいろなものが入り組んでいて、これ、と一つを単純に引っぱりだせるものではないのでしょう。そのように、誰しもが、言葉にできない、だけどかすかに感じている「声なき声」を持っています

だからこそ、それらを見抜き洞察して「ほら、これでしょ?」と手にとって見せる。そのとき初めて、顧客の本能が「ハッ」と反応し、顧客の感情に「グサッ」と突き刺さるのです。無意識の本音はあくまで洞察し見抜くべきものであり、聞き出そうとしたところで、答えられるようなものではないのです。

| マーケティング参考文献

(著者)和田浩子|(書名)すべては、消費者のために。|(出版社)トランスワールドジャパン

(著者)森岡毅|(書名)USJを劇的に変えた、たった1つの考え方 成功を引き寄せるマーケティング入門|(出版社)KADOKAWA

(著者)中村禎 |(書名)最も伝わる言葉を選び抜く コピーライターの思考法|(出版社)宣伝会議

(著者)西口一希|(書名)たった一人の分析から事業は成長する 実践 顧客起点マーケティング|(出版社)翔泳社

(著者)足立光・西口一希|(書名)アフターコロナのマーケティング戦略 最重要ポイント40|(出版社)ダイヤモンド社

(著者)Philip Kotler とKevin Lane Keller|(書名)コトラー&ケラーのマーケティング・マネジメント 第12版|(出版社)丸善出版