「値決めは経営」とよく言われます。
しかし、具体的にどのように価格や見積金額を決めたらいいかを知っている人はそう多くはないのではないでしょうか?
決算書はなぜ経営に使えないのか
決算書は過去の実績の確認に過ぎない
決算書の役割は対外報告書(税務申告、金融機関への報告、株主への報告)です。
また、この決算書は過去の実績の確認に過ぎず、タイムリーに経営状況を捉えて利益を作り出すのに役立つものでもありません。
もちろん、税務署や金融機関は決算書に基づき判断を行うので、税金マネジメントや金融機関との交渉に関しては決算書に基づいて計画を立てる必要はあります。
つまり、決算書では社長が肌で感じている日々の儲けを測定することはできないというのが実情なのです。

決算書は過去実績の確認するためのものであり、日々の儲けを測定するためのものではありません。
利益はどの時点で決まるのか
「利益はどの時点で決まるのでしょうか?」
代金回収をした時に利益が決まると思った方も多いと思います。
しかし、本当にそうでしょうか?
実は、それは最終結果に過ぎないのです。
利益は見積りを出した時点で決まるのです。
これが「値決めは経営」と言われるゆえんです。

値決めですべてが決まると言っても過言ではないのです。
最も大切な粗利総額を理解する
粗利総額とは何なのか?
結論から申し上げると、利益は固定費と粗利総額で決まります。
粗利総額が固定費を上回れば利益が出るし、逆に下回れば赤字になるということです。
それでは、「固定費」「粗利総額」とは何なのでしょうか?
それを理解するには、利益の構造を明らかにする必要があります。
まずは下図をご覧ください。
❶価格P(商品1個あたりの値段)
❷変動費V(商品を作るための材料費)
❸粗利M(価格から変動費を差し引いた商品1個あたりの利益)
❹数量Q(何個売れたか)
❺売上総額PQ(P×Q)
❻変動費総額VQ(V×Q)
❼粗利総額MQ(M×Q)※限界利益ともいいます
❽固定費F(人件費や家賃など)

価格をP、変動費をV、粗利をMとし、それぞれに数量Qを掛けると、それらがPQ(売上総額)、VQ(変動費総額)、MQ(粗利総額、限界利益とも言う)になります。
ここで出たMQから、固定費Fを引いたものが、利益Gとなります。

事業を営むうえで必ず発生する経費には「変動費」と「固定費」の2種類が存在します。 変動費は売上に応じて金額が変わる経費であるのに対し、固定費は売上に関係なく必ず計上される経費のことを指します。
ハンバーガショップの事例
それでは、ハンバーガーショップの具体例を用いてもう少し考えてみたいと思います。
ハンバーガーを1つ100円で販売しているハンバーガー屋さんが1ヶ月で10,000個のハンバーガーを売上げたとします。
変動費(バンズやお肉、レタスやトマトなどの原材料費)は40円/個、ハンバーガーの粗利は60円/個になり、固定費(人件費や店舗賃料などの経費)は40万円/月です。
利益の構造は以下のようになります。
❶価格P/100円
❷変動費V/40円
❸粗利M(価格から変動費を差し引いた商品1個あたりの利益)/60円
❹数量Q(何個売れたか)/10,000個
❺売上総額PQ(P×Q)/100万円
❻変動費総額VQ(V×Q)/40万円
❼粗利総額MQ(M×Q)※限界利益ともいいます/60万円
❽固定費F(人件費や家賃など)/40万円
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❾利益G=20万円


”MQ-F=0”の地点が利益トントンということです。
利益はどれだけ必要なのか?

それでは、利益はどれだけ必要になるのでしょうか?
”MQ-F=0”で利益トントンということであれば、それで大丈夫なのでしょうか?
ここで、利益Gの内訳について考える必要があります。利益の内訳は以下とおりです。
【利益Gの内訳】
❶借入金返済の支払い
❷来期以降の投資予定額
❸来期繰越金
❹法人税(利益の10%~40%)の支払い
つまり、”MQ-F=0”で利益トントンであるとすると、借入金の返済も成長に向けた投資もできなくなるということです。
だからこそ、まず考えるべきは、「借金の返済、将来投資で必要なお金はいくらか、会社にいくらお金を残したいか」ということなのです。
例えば、
「借入金のうち今年の返済額は300万円だ」
「将来投資として、200万円は見込んでおきたい」
「今年は会社に100万円は残したい」
と考えているのであれば、税引き後利益で600万円は必要であることが分かります。
「税率40%として利益目標は1000万円(600万円÷60%)必要だ」
つまり、今年度達成しなければいけないMQ(粗利総額)は1000万円(利益G)+固定費Fということになるのです。
ということが分かるのです。

利益目標はゴールから逆算して考えなければならないということです。
孫正義の目標管理術
日次決算について
ソフトバンクがまだ出版業を営んでいた頃のことです。
出版部門が赤字を出して、6誌のうち5誌までが赤字になった時がありました。
流通はとにかく毎日が勝負です。月次決算で数字を見ても、1ヶ月前の数字ではまったく役に立ちませんでした。
毎日の決算を出すことにより足元の状態をすばやく知って、初めて対策が打てるようになると孫正義社長は考えました。その時に、各雑誌ごとに細かく分析して手を打ったら、半年後にそのうちの4誌まで黒字にすることができたのです。
つまり部門を細かく分けて分析することで、経営の正確な実態をつかめるようになったというわけです。
その時に用いた分析方法が、MQ(粗利総額)を使った日次決算だったのです。
手順は以下のとおりです。
❶部門ごとに残したいお金を算出
❷部門ごとの今年の借金返済金額を算出
❸部門ごとの将来投資必要金額を算出
❹部門ごとに残したいお金を算出
❺部門ごとの固定費を算出
❻(❶~❺を足して)年間目標MQ総額を設定
❼(❻÷12カ月で)月次目標MQ総額を設定
❽(❼÷稼働日で)日次目標MQ総額を設定
❾日次目標MQ総額を達成するために粗利Mを積み上げていく

価格や見積金額の決め方
最期にMQ会計を基にした価格や見積金額の決め方の手順を説明しておきます。
❶年間目標MQ総額に対する年間売上数量Qを決定します
❷1個の売り上げに必要な利益Mを算出します(MQ÷Q=M)
❸1個の売り上げに必要な変動費Vを算出します
❹変動費V+利益M=価格Pとなります。

価格や見積金額を決めるうえでは、MQ会計だけでなく、市場環境や競合他社の状況などの分析を加味する必要は当然ありますよ。